ショクジコウ 植字工
劇的な出会いから結婚した二人、青木真之介と九鬼紅葉。しかし数年後、真之介は心不全で逝去。
夫に先立たれた妻紅葉は、以来精神科に通うほど衰弱し、抜け殻のような生活を送っていた。
そんな中、真之介の元同僚から連絡が入る。会社に遺品が残っていたとのこと。
受け取ってみると、それは真之介が生前に描いた紅葉の似顔絵であった。彼女は少しでも夫の気配を感じようと似顔絵を心行くまで鑑賞してみる。
監督コメント人は「あの時ああいう決断をしたから今がある」というようなことを時々口にします。過去や経験が今の自分を作っている……
しかし、果たして本当にそうでしょうか。
今ここにいる自分とかつてあそこにいた自分との間にある距離を知る時、人はぞっとするような気持ちになるはずです。
「自分自身」という幻想を形作っているものは一体何なのでしょうか。そして、どうしたらその幻想から解放されるのでしょうか。
STILLS
CREDIT
- 出演
- 柚里香、仲野修太朗、戸丸杏、間根山雄太
- 制作
- 松岡慧
- 助監督
- 佐藤恵利香、相馬大輝、土屋冠侍
- 録音
- 長谷川有紀
- 美術
- 戸谷太佑
Q&A 監督へのアンケート
別作品の名前を出して恐縮ですが、前作「スプラヒスピル」を制作した時にこれは傑作だと確信しました。最近見返した時もやはり傑作だと思いました。現代映画を見渡してもこの作品ほど抽象的/宗教的なものを描こうとしているものは無いし、途方も無いものに手を伸ばしている感じが凄まじいです。
ただ、TAMA NEW WAVE様以外に評価してくれず、結果的には惨敗でした。とても落ち込みました。そんな時にある友人から自身の体験を映画にしてくれないかと相談されたのが「植字工」のきっかけです。その友人に何度か聞き取りを行って脚本を仕上げていきました。
「スプラヒスピル」で手に届きそうもない事柄を描いたので、他方で今度は地に足のついた事を描こうとしたというか、体験ベースなのでそうなるのが自然でした。
正直それ故に失敗したと思っています。地に足がつき過ぎて半端な作品に陥っている。破壊性が無い。編集がある程度終わってラッシュを観た時、個人的には悲しい気持ちになりました。駄作にしてしまったなという感じで。
でもこうして評価してくださっているということは何かしらのパワーがあるのだと思います。本当にありがたい限りですし、色々な感想を伺って自分の知らない魅力を発見できるのを楽しみにしております。
勅使河原宏の「白い朝」は半年に一回くらい観ています。安部公房、武満徹との黄金タッグで制作されたほぼ自主短編のようなものですが、見る度に胸を打たれます。論理や言語でいけるところまでいって限界ギリギリまでつきつめるのが古典日本映画、そして今まで脈々と受け継がれている日本映画らしさだと思っています。しかしこの短編は日本映画には珍しい詩情のような時間の流れる映画です。意味とか倫理とか脚本とか、そういうもので刈り取ることのできない良さがたっぷり含まれています。
あとはインディーズになりますが楠城昇馬監督の「あるきはじめて」は何度も見ました。映画的モンタージュの力を思い知らされた作品です。カメラの記録性、残酷さ、そうした根源的な呪力について深く理解していないと撮れないような映画だと思います。人、ひいては世界のあり方、【生のままの事実しかこの世にはない】というような冷たい感覚?みたいなのをはっきり捉えていて、とても素晴らしい作品だと思います。

